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高知地方裁判所 昭和38年(行)5号 判決 1968年3月22日

高知市中水道一二三番地

原告

黒川馨

右訴訟代理人弁護士

大坪憲三

同市中島町一七番地

被告

高知税務署長

山根文一

右指定代理人

上野国夫

右同

叶和夫

右同

中沢秀夫

右同

奥村富士雄

右同

水沢正幸

右同

岡林美喬

右当事者間の所得更正決定取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の申立

一  原告訴訟代理人は、「被告が原告の昭和三六年度分所得税について、昭和三七年九月一五日付でなしに、所得金額を七〇万四、八一六円、所得税額を四万八、七五〇円とする更正決定(ただし、昭和三八年六月二六日付審査決定により減額されたもの)のうち、所得金額三四万二、九三〇円をこえる部分および過少申告加算税二、四〇〇円の賦課処分を、いずれも取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。

二、被告指定代理人は、主文第一、二項と同旨の判決を求めた。

第二原告の主張(請求の原因)

一、原告は、建具の製造販売を営むものであるが、昭和三七年三月一五日被告に対し、昭和三六年度分の所得税につき、所得金額を二六万二、九二九円とする確定申告書を提出したところ、被告は、同年九月一五日付で、所得金額を七六万〇、一四九円、所得税額を五万八、五〇〇円とするとの更正決定をなし、同時に、過少申告加算税額二、九〇〇円を賦課する処分をして、その頃その旨を原告に通知した。そこで、原告は、同年一〇月四日所得金額を三四万二、九三〇円と変更して、被告に対し異議の申立をしたが、被告は、同年一二月二六日付で棄却決定をなし、その頃その旨を原告に通知した。原告は、さらに、昭和三八年一月二六日高松国税局長に対し、審査請求をしたところ、同局長は同年六月二九日付で、更正決定および賦課処分の一部を取消し、所得金額を七〇万四、八一六円、所得税額を四万八七五〇円、過少申告加算税額を二、四〇〇円とする旨の審査決定をなし、同年七月九日原告にその旨通知した。したがって、被告のなした右更正決定および過少申告加算税の賦課処分は、右審査決定の限度において効力を有するものである。

二、しかしながら、原告の右年度における所得金額は、前記のとおり、三四万二、九三〇円である。

三  よって、被告のなした更正決定のうち、右所得金額三四万二、九三〇円をこえる所得金額および所得税額ならびに過少申告加算税の賦課処分はいずれも違法であるから、その取消しを求める。

第三請求の原因に対する被告の答弁および主張

一、請求の原因に対する答弁

請求原因中一の各事実を認める。同二の事実は否認する。

二、被告の主張

(一)  原告は、所得計算の基礎となる帳簿記録その他必要資料を備えつけていなかった。

(二)  そこで、被告および訴外高松国税局長は、推計により原告の所得金額を算出したものであるが、その算出方法は次のとおりである。

1 推計方法の算式として次のものを採用した。

(1) 売上原価÷(1-差益率)=収入金額

(2) 収入金額×所得率=算出所得

(3) 算出所得-特別経費=所得金額

なお差益率は、収入金額から売上原価を差し引いたいわゆる荒利益の収入金額に対する割合であり

所得率は、収入金額から、売上原価と一般経費を差し引き、雑収入を加えたものの収入金額に対する割合である。

2 右売上原価については、仕入先調査等の結果、原告の申告額一六〇万九、三六七円を妥当な金額と認めてこれを推計の基礎とした。

3 次に、差益率および所得率については、同業者の差益率と所得率を使用するべく、高松国税局作成の「昭和三六年分商工庶業所得標準率表」(以下、単に本件標準率表という。)にもとづいて「建具製造小売」の部から差益率四四パーセント、所得率三七パーセントを求めたが、さらに、高知市内の同業者のうちで、原告と営業規模が同程度の青色申告者につき、昭和三六年度の差益率および所得率を求めたところ、そのそれぞれが、訴外中屋秀章については、五三パーセントおよび四四パーセント、同前田貞雄については、四七パーセントおよび四四パーセント、同島田清水については、四六パーセントおよび三九パーセントであった。そこで、本件標準率表と高知市内の同業者の数値のうち、原告に最も有利な本件標準率表の差益率および所得率を使用した。

4 特別経費については、工賃一二万円、食費および手当一八万二、〇〇〇円、建物減価償却費一万六、三三五円ならびに借入金利子四万〇、一八〇円の合計三五万八、五一五円をもって、認定額とした。

5 右2ないし4の各数値を使用し、1の算式にもとづいて計算すると、

(1) 1,609,367÷(1-0,44)=2,873,869

(2) 2,873,869×0.37=1,063,331

(3) 1,063,331-358,515=704,816

となり、原告の収入金額は二八七万三、八六九円、算出所得は一〇六万三、三三一円、所得金額は七〇万四八一六円となる。

(三)  ところで、本件標準率表は、高松国税局が管内青色申告者の調査事績および青色申告以外の者の実額調査を基礎として作成したものであるから、その数値は妥当性のあるものである。

(四)  以上のとおりであるから、被告および高松国税局長のなした右推計は、合理性のあるものであり、被告のなした本件更正決定および賦課処分には、取消されるべき何らの違法な点も存しない。

第四被告の主張に対する原告の答弁および反論

一  被告の主張に対する原告の答弁

(一)  被告主張の(一)の事実および(二)の1、2の各事実はいずれも認め、被告主張の算式を使用して原告の所得金額を推計することについては争わない。

(二)  同(二)のの事実については、被告および高松国税局長が推計にあたり、本件標準率表の「建具製造小売」の部の差益率および所得率を使用したことならびに中屋秀章、前田貞雄および島田清水が高知市内における同業者であることは、いずれも認めるが、右三名の昭和三六年度の差益率および所得率が被告主張のとおりであることは知らない。その余の点は全て争う。

(三)  同(二)の4の事実は認める。

(四)  同(二)の5の事実は争う。

(五)  同(三)の事実は争う。

二、原告の反論

被告および高松国税局長の使用した本件標準率表にもとづく差益率および所得率の数値はいずれも妥当性を欠くものであるから、これを使用して算出された被告主張の所得金額は合理的な推計にもとづいて算出されたものということはできない。すなわち、

(一)  本件標準率表は、科学的、統計学的な基礎に立ち、信頼すべき方法によって作成されたものではなく、また、右差益率および所得率は、次に述べるとおり、妥当性を欠くものである。

(1) 算出所得は、本来次の算式により求められる。

収入金額-売上原価-必要経費+雑収入=算出所得

(2) そこで、本件標準率表にもとづく差益率および所得率を使って算出された前記収入金額二八七万三、八六九円および算出所得一〇六万三、三三一円ならびに争いのない売上原価一六〇万九、三六七円を使用し、右算式にもとづいて計算すると、前記被告主張の推計における必要経費の数値を算出することができる。すなわち、右(1)の算式は、

収入金額-売上原価-算出所得+雑収入=必要経費

となるものであり、そして、雑収入は、通常、きわめて少額であるから、これを一応無視して計算すると、2,873,869-1,609,367-1,063,331=201,171

となり、必要経費は、二〇万一、一七一円と算出される。

(3) しかしながら、原告の必要経費の実額は、別紙一表記載のとおりの内訳であって、合計三〇万七、七八九円となるものであり、右(2)で明らかとなった金額との間に著しいひらきがある。

(4) 従って、本件標準率表の差益率および所得率は妥当性を欠くものといわなければならないから、これを使用してなされた被告主張の推計もまた合理性を欠くものというべきである。

(二)(1)  原告のところでは、原告を除く従業員三名は、いずれも見習工であるのに対し、被告主張の中屋ほか二名の業者のところでは、熟練工が雇用されているので、原告と右業者の営業を比較すれば、原告の方が著しく非能率的である。

(2)  また、原告のところでは、一般建具のみを製造しているのに対し、右三業者のところでは、一般建具以外に相当の比重を占めて、利益の大きいふすまを製造しているものである。

従って、右三業者の営業と原告の営業とを比較するのは、相当でないから、右業者の差益率および所得率をもって、ただちに、本件標準率表の差益率および所得率の妥当性を裏付けるものとすることはできない。

(三)  さらに、高知市内における同業者である訴外浜田治助は、原告と類似の製品を製造しているが、右浜田の昭和三六年度における差益率は、三五パーセントとなっている。そして、一般建具の製造業者の場合、その差益率が四〇パーセント以下であることは業者間の常識であるから、以上の事実からしても、本件標準率表の差益率および所得率の数値は妥当性を欠くものである。

第五原告の反論に対する被告の答弁

原告が、実額をもって主張する必要経費のうち、公租公課、水道料、動力費、電話料、火災保険料および労災保険料については、いずれもその額とそれらが必要経費であることを認める。電燈料一万八、一七九円のうち、その三分の二にあたる一万二、一一九円が必要経費であることを認めるが、その余が必要経費であることならびにその他の必要経費についてはその金額をいずれも争う。

第六証拠

一、原告

甲第一号証の一、二、第二号証の一ないし一二、第三号証の一ないし一二、第四号証の一ないし一二、第五号証の一ないし四、第七、八号証、第九号証の一、二、第一〇号証の一、二、第一一号証、第一二号証の一ないし七、第一三号証の一ないし四、第一四号証の一ないし三、第一五号証、第一六号証の一ないし三、第一七号証の一、二、第一八、一九号証を提出し、証人中屋秀章、同前田貞雄、同島田清水、同浜田文平、同池上隆郎の各証言および原告本人尋問の結果を援用し、乙第六号証の成立を認めるが、その余の乙号各証の成立はいずれも不知と述べた。

二、被告

乙第一号証、第二号証の一、二、第三ないし第六号証を提出し、証人東村英彦、同中屋秀章、同前田貞雄、同島田清水、同山崎三鶴の各証言を援用し、甲第一号証の一、二、第二号証の一ないし一二、第三号証の一ないし一二、第四号証の一ないし一二、第五号証の一ないし四、第七号証、第九号証の一、二、第一〇号証の一、二、第一七号証の一、二、および第一八号証の成立はいずれも認めるが、その余の甲号各証の成立はいずれも不知と述べた。

理由

第一当事者間に争いのない事実

原告主張の請求の原因一の事実は当事者間に争いがない。

第二本件推計課税の合理性について

一  原告が、昭和三六年度(以下係争年度という。)の所得税の申告に際し、所得計算の基礎となる帳簿記録その他必要資料を備えつけていなかったことは当事者間に争いがないので、原告の右年度の所得金額を算出するにあたって、推計計算の方法に依拠することは妥当であるというべきである。

二、次に、被告および訴外高松国税局長が採用した推計方法の妥当性の有無について考えるに、被告および同局長が、被告主張の算式を使用して、原告の係争年度の所得金額を推計したことについては、当事者間に争いがなく、また、原告は、推計方法として右算式を使用することについては争わない旨主張するので、他に右算式の使用を不合理とする特段の事情の認められない本件においては、被告および同局長が使用した右算式は、原告の所得金額の推計方法として妥当性を有するものと認めるのが相当である。

三、そこで、進んで、右算式を使用してなされた推計計算の合理性の有無について判断する。

(一)  右算式中の売上原価および特別経費の額をそれぞれ一六〇万九、三六七円および三五万八、五一五円と認めて、これを推計の基礎とすることならびに被告および同局長が本件標準率表の「建具製造小売」の部から、差益率四四パーセントおよび所得率三七パーセント(以下、単に本件差益率および所得率という。)を求めてこれを右算式中の差益率および所得率として適用したことについては、いずれも当事者間に争いがない。

(二)  しかしながら、原告は、本件差益率および所得率の数値が妥当性を欠く旨主張して争うので、以下この点について検討する。

1 成立に争いのない乙第二号証の一、二、証人東村英彦、同山崎三鶴の各証言に弁論の全趣旨を合わせ考えれば、商工庶業所得標準率表は、所得税の確定申告がなされた場合において、申告所得金額の正否を検討するためおよび推計課税をなすべき場合において、所得金額を算出するための各資料とする目的をもって、国税庁の指示にもとづき、毎年、各国税局単位で作成されるものであること、高松国税局においては、右標準率表の作成にあたり、管内の各税務署に対し、商工庶業者の内から百をこえる業種を指定し、営業規模等をも考慮して、各業種につき、統計学的見地から必要とされる相当数の業者を無作為抽出法により抽出して、その当該年度の売上高、必要経費、所得等事業上の収支の実態調査資料を集めるよう指示し、右指示にもとづいて管内各税務署から集められた資料を同国税局所得税課において集計し、統計学的に処理した結果、各業種に応じた差益率および所得率等の平均率を算出していること、右によって算出された平均率については、国税庁および同国税局において、その具体的適用の場合に備えて検討がなされていることおよび本件標準率表も右同様の過程を経て作成されたものであることがそれぞれ認められ、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。そして、右鑑定事実を総合すれば、本件標準率表は、その作成過程に照らして一応の合理性を有するものと認めるのが相当である。

2 もっとも、証人山崎三鶴の証言によれば、商工庶業所得標準率表は、国税局において、秘密文書の扱いとされていることが認められるが、その理由は、これを公表することになれば、これにもとづいて確定申告する者が出てくるおそれがあるため、ひいては青色申告納税制度の趣旨が没却されることになるという点にあるものと認められるので、右標準率表が秘密文書の扱いとされていることの一事をもって、直ちに、その作成方法が合理性を欠くに至るものとは認められないところといわなければならない。

3 そうすると、本件標準率表は、その作成過程に照らし、合理性があるものと認められるので、被告および高松国税局長が前示算式において適用した本件差益率および所得率は、他にこれを排斥すべき特段の事情の認められない限り、原告の係争年度の所得金額を推計するにあたってこれを使用しても、何ら妥当性を欠くものではないといわなければならない。

4 ところで、原告は、必要経費の実額と本件差益率および所得率を適用して算出した必要経費の額との間に著しいひらきがあるので、右差益率および所得率は、妥当な数値ではないと主張する。そして、原告が実額をもって主張する別紙一表記載の必要経費のうち、公租公課、水道料、動力費、電話料、火災保険料および労災保険料については、いずれもその額とそれらが必要経費であることならびに電燈料一万八、一七九円のうち、その三分の二にあたる一万二、一一九円が必要経費であることはいずれも当事者間に争いがないところであるが、右金額の合計は六万五、一一八円にすぎないものであって、原告が本件差益率および所得率を適用して算出した必要経費として主張する二〇万一、一七一円には、遙かに満たないものであり、その他の必要経費の実額については、これを認定するに足りる証拠もないので、結局、原告主張のように、必要経費の実額をもって、前認定の本件差益率および所得率の一般的妥当性を否定することはできないところといわなければならない。

5 また、原告は、本件差益率および所得率の数値の妥当性の裏付けとして、被告主張の同業者の営業と原告の営業とを比較するのは相当でなく、原告の営業は原告と類似製品を製造している浜田治助の営業と比較すべきであり、しかも一般建具の製造業者の差益率は、四〇パーセント以下であることが業者間の常識であると主張する。

そして、証人前田貞雄、同中屋秀章、同島田清水、同池上隆郎、同浜田文平の各証言ならびに原告本人尋問の結果を総合し、弁論の全趣旨を合わせ考えれば、前田貞雄は、障子、ガラス戸および雨戸を製造販売しており、係争年度当時の従業員の構成は、同人と見習工二名であったこと、そして、受注先は建築大工が主であって、建築会社からの受注はまったくなかったこと、また、当時の機械設備は、小割り、ノコギリ、穴掘機、手押カンナのほか、一馬力のモーターが二つあったこと、中屋秀章は、ガラス戸、雨戸、ふすまおよびフラツシユ戸を製造販売しており、係争年度当時の従業員の構成は、同人とその息子、職人一名および女性の雇人一名であったこと、その内、ふすま製造には女性のみが従事していたことならびにふすま製造は、はじめてから日が浅かったため年間売上げとしては、ガラス戸が三分の二で、他の三分の一はふすまと雨戸を合算したものであり、従って、ふすまと他の建具の利益とを比較すれば、後者の方が大きかったこと、島田清水は、雨戸、障子、ガラス戸およびフラツシユ戸を製造販売しており、係争年度当時の従業員の構成は、同人、職人一名、見習工一名であったこと、そして、当時の機械設備としては、製材機、手押カンナ、自動カンナ、穴掘機のほか三・五馬力のモーターがあったこと、浜田については、名義上の事業主は浜田治助となっているが、実際は、同人の弟の浜田文平が経営しているものであって、雨戸、ガラス戸、出入口のドア等ふすまと鉄製の建具を除く木製建具の全部を製造販売しており、係争年度当時の従業員の構成は、職人四名、見習工二名、治助(熟練者)および同人の弟浜田俊久(見習程度)となっており、経営主である文平は、経理と外交を専門に担当していたこと、受注先は、大小の建築業者からのものが約半分を占め、他は一般家庭からのものであったこと、また、同年度の差益率は、計算したところ三五パーセントであったが、この数値は、他の同業者と比較して悪いものであったこと、原告は、障子、ガラス戸および雨戸を製造販売しており、係争年度当時の従業員の構成は、原告と見習工二、三名であったこと、そして、受注先は、建築業者と一般家庭であり、また、当時の機械設備としては、自動プレア、手押カンナ、穴掘機などがあったことがそれぞれ認められる。そこで、右認定事実にもとづいて、原告と他の同業者の営業規模、従業員数、製品、受注先等を比較すれば、原告の営業は、前田貞雄、中屋秀章および島田清水の各営業と、ほぼ、同程度であると認めるのを相当とするが、浜田文平の営業との間には、著しいひらきがあるので、原告の営業と浜田文平の営業とが同程度のものであるとは到底認めることはできない。

そして、証人中屋秀章の証言により真正に成立したものと認められる乙第三号証、証人前田貞雄の証言により真正に成立したものと認められる乙第四号証および証人島田清水の証言により真正に成立したものと認められる乙第五号証によれば、係争年度における中屋秀章の収入金額は、二六四万四、九九一円、売上原価は、一二四万二、五一八円、一般経費の合計額は、二三万二、七三三円、雑収入は、二、二五五円であり、前田貞雄の収入金額は、一二八万三、三〇〇円、売上原価は、六七万八、五七〇円、一般経費の合計額は、三万七、三〇七円であり、島田清水の収入金額は、一六二万三、九九〇円、売上原価は、八六万七、四〇四円、一般経費の合計額は、一二万〇、八四一円、雑収入は、七、六四〇円であると認められるので、これらの各金額にもとづいて、各人の差益率および所得率を算出すれば、中屋秀章の差益率は五三パーセント、所得率は四四パーセント、前田貞雄の差益率は四七パーセント、所得率は四四パーセント、島田清水の差益率は四六パーセント、所得率は三九パーセントとなるものである。

(なお、差益率の算式は、(収入金額-売上原価)÷収入金額=差益率であり、所得率の算式は、(収入金額-売上原価-一般経費+雑収入÷収入金額=所得率であって、いずれも当事者に争いがない。)

そうすると、結局、被告および高松国税局長が中屋秀章、前田貞雄および島田清水の各差益率および所得率と本件差益率および所得率を比較して、原告にもっとも有利な本件差益率および所得率を適用したことは、何ら相当性を欠くものとは認められないので、前認定の右差益率および所得率の一般的妥当性は、右比較によって、何ら損われるものではないといわなければならない。

また、一般建具の製造業者の差益率が四〇パーセント以下であることは業者間の常識となっているとの事実については、これを認めるに足りる証拠はない。

(三)  そこで、売上原価を一六〇万九、三六七円、差益率を四四パーセント、所得率を三七パーセント、特別経費を三五万八、五一五円とし、前認定の所得金額を算出する算式を使用して推計計算をすると、所得金額は七〇万四、八一六円と算出される。

第三原告の所得金額の実額の主張について

原告は、係争年度の所得金額の実額が三四万二、九三〇円であると主張するが、原告の全立証その他本件全証拠によるも右事実を認めるに足りない。

第四所得控除について

成立に争いのない乙第六号証によれば、原告の昭和三六年度における社会保険料控除額は、一万七、一四〇円、生命保険料控除額は、二万〇、一〇〇円、扶養控除額は、二〇万円、基礎控除額は、九万円であって、その合計額は三二万七、二四〇円となることが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

第五税額について

そこで、第二の三、(三)で認定した所得金額七〇万四、八一六円から第四で認定した三二万七、二四〇円を控除すると、課税総所得金額は三七万七、五七六円となり、昭和三七年法律第四四号による改正前の所得税法第一五条第一項、別表第一によれば、所得税額は、四万八、七五〇円と算出される。そして、原告には、昭和三七年法律第六七号国税通則法の施行等に伴う関係法令の整備等に関する法律による改正前の所得税法第五六条第一項、第六項、第五四条第四項にもとづき過少申告加算税が賦課されるところ、その金額は、右所得税額四万八、七五〇円から、一、〇〇〇円未満の端数を切り捨てた金四万八、〇〇〇円に百分の一五の割合を乗じた二、四〇〇円となる。

第六結論

そうすると、被告が昭和三七年九月一五日付でなした更正決定および過少申告加算税の賦課処分は、高松国税局長の審査決定で取消された残余の効力を有する部分につき、何ら違法な点は存しないものといわなければならない。

よって、右更正決定および賦課処分の違法を理由として、これが取消を求める原告の本訴請求は、失当としてこれを棄却することし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小湊亥之助 裁判官 岡崎永年 裁判官 西尾幸彦)

別紙一 必要経費の内訳表

<省略>

別紙二 減価償却費計算表(償却方法は定額法による)

<省略>

(備考)

(1) (ロ)の償却の基礎となる価額 所得税法施行規則(昭和三六年政令第六二号による改正のもの)第一二条の一三第一項第一号、第四項参照。

(2) (ハ)の耐用年数 固定資産の耐用年数等に関する省令(昭和三六年大蔵省令第二九号による改正のもの)別表一、二参照。

(3) (ニ)の償却率 右省令別表一〇参照。

(4) (ヘ)の償却割合 所得税法施行細則(昭和二九年大蔵省令第二一号による改正のもの)第二条第一項第一号参照。

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